働くひとのための心理学のブログ

もっと楽しく働くために、ビジネスに関わる「心と行動」を考えます

「御社が第一志望です」と聞いた時の、人事部員の気持ち。

「当社の志望度合いはどの程度ですか?」と聞かれた時のテクニックとして、たくさん併願していて決めきれない状況でも必ず「第一志望です」と答えておけ、というのがあります。志望度が低い学生は合格させても他社に行ってしまうと思われて不利だから、というのが根拠とされていますが、さて実際の効力はいかほどのものなのでしょうか。

新卒採用のレッド・オーシャンにどっぷりつかっている企業の場合、他社が欲しがる学生は自社にとっても価値が高く入社させたい人材だ、と見ます。特に競合他社の中でもナンバーワンの企業や就活における人気企業は入社難易度も高いはずで、そうした会社で最終面接に残ったり内定を得そうな学生はあわよくば自社にて獲得したいと考えるのです。(評価の観点が違えば高く評価される人材が別々でもおかしくないわけですが、そうならずいくつかのタイプの学生に内定が集中しがちなのが実態です。)

企業から求められる度合いを「就活競争力」と名付けることにし、当社への志望度合いの高低と合わせた二つの象限で学生を場合分けすると、次のようになります。

  • (a)就活競争力=高 当社への志望度合い=高
  • (b)就活競争力=高 当社への志望度合い=低
  • (c)就活競争力=低 当社への志望度合い=高
  • (d)就活競争力=低 当社への志望度合い=低

企業から見て採用したい人材はこのうち(a)(b)です。残念ながら(c)(d)ではなく、「御社は第一志望です」と言ったかどうかや、それが本当か嘘かはあまり関係がないのです。もし嘘をつくとしたら志望順位じゃなくて「◯◯商事からも✕✕航空からも□□銀行からも内定もらってます」と言う方が合理的です(まあ、お勧めはしませんが...)。

(a)の学生は自社のファンで能力も高そう、大切にしたいところですが他社からも狙われています。「御社が第一志望です」と言った言葉の真偽を慎重に見極め、本当だと判断すれば他社にさきがけて内定を出し、他社に目移りする前に入社を決めてもらおうとします。

そして実は(b)の学生も(a)と同じくらい自社に欲しい。ただ、早く内定を出して他社と迷われては困る(内定予定数を使い切った状態では他の学生に内定が出せない)。他社に行く可能性が低くなった状況でようやく内定を出します。あとは少々時間をかけてでも自社の魅力に気づかせ、入社の意思を固めてもらうことになります。

「採用は恋愛に似ている」から、心変わりも仕方がない。

「モチベーション」にフォーカスした経営コンサルティング会社、リンクアンドモチベーションは採用活動と恋愛との類似点を指摘しています。

採用活動は、エントリーから雇用関係に至るまでの関係構築活動であり、これは、出会いから婚約に至るまでの恋愛関係と似ています。学生の気持ちを踏まえ、それぞれのタイミングに応じたイベントやコミュニケーションによって、関係をつむいでいくことが重要です。 http://www.lmi.ne.jp/news/2006/200606301905227.html

面接で「第一志望です」と言った学生があっさり他社に行ってしまうことなんて毎年無数にあり、人事部員は時に空しく感じることもあるのですが、第一印象から相思相愛だったり、時には口説いて振り向かせたり。確かに、ちょっと恋愛に似ているこの仕事においては、いろんなきっかけで好きになったりそうでなくなったりの「心変わり」があってもまた不思議ではないのかなあという気がしています。

職場で心の不調を感じたら「EAP」の3文字を思い出すべき理由

「楽な仕事などない。会社がお前に給料を払うのは仕事がしんどいからだ」

と、新人のころに先輩に言われたことがあるのですが、景気や市場環境などによって会社の売上や利益がいとも簡単に増減したり、給料や賞与の額が職種や会社によって千差万別である現実などを見てきたいま、個人のしんどい思いの度合いと人件費原資との相関ってほとんどないような気がしています。

なので、給料の多い少ないはいったん横に置くとしても、仕事が仕事である以上は何らかの「しんどさ=困難さ」を伴うことはある程度避けられないのかなとは思います。理不尽な顧客や無茶な上司、気のきかない部下、やってもやっても終わらない作業...職場にはストレス要因がたくさんあります。そのひとつひとつは仕事をこなしながら直属の上司や、場合によっては人事部などの社内第三者と相談しながら解決したり負荷を減らしたりしつつ解決すべきなのでしょうが、もし心の不調に発展しそう(あるいは不調を覚え、まだ誰にも相談てきていない)としたら、会社に「EAP」の制度があるかどうか調べ、その利用を検討するのが良いと思います。

EAP(Emproyee Assistance Program):従業員支援プログラム

EAP(イーエーピーともイープとも)は従業員支援プログラムと訳される社員向けサービスの一種で、導入企業や委託先機関の体制にもよりますが、産業カウンセラー臨床心理士などの心理職とカウンセリングルームや電話などで相談できる(社員の個別負担はなし。月間で一定回数まで、と上限が設けてある場合も)というメニューがたいていメインに位置づけられています。直接の利害が絡む上司や、一義的には会社を守ることを本筋に抱える人事部員との相談に抵抗を感じたら、外部にあって直接の関係がなく、クライエントと並走して問題の解決を見出そうとする心理職との対話が心の不調を和らげる一助となるかも知れません。

そうして大切な社員の精神的健康と会社の生産性を維持することが、費用をかけてEAPを自社に導入する動機なのです。職場の要となる社員が突然(と感じることが多い)に診断書を提出して休んだり、ストレスを理由に退職を申し出て「事前に何とか対処できなかったのか」と悔やむ例がいまだにたくさんあります。労使双方からもっと活用されて欲しい制度のひとつです。

働く人のためのアドラー心理学 「もう疲れたよ…」にきく8つの習慣 (岩井 俊憲)

 

アドラー心理学を、実践しやすいようコンパクトに五つの基本&八つの習慣にまとめた一冊。アドラーの「useful」に「有益」でなく「建設的」という訳語を充てているところが印象的。「もう疲れたよ...」という状態の人は時に破滅的・破壊的な行動もとりかねない恐れがあるところを、人間は自分の行動を自分で決められる、そしてそれを可能な限り建設的な方向へと向けましょう、というメッセージがすとんと腹に落ちます。

Kindleで繰り返し読んで頭に入れてしまいたいと思います。

確証バイアス −「不合格」の理由を気にする必要はない。

新卒の採用活動は、大手企業だとプレエントリーで数万人、筆記試験を受けるのが数千人という規模になるので、それで内定が十数人とかだと、当然もの凄い数の学生さんを不合格にしないといけないのです。その選考はどういうプロセスで行っているのか、という話。

入社して頂ける人数(採用予定数)もさることながら、面接できる人数すらも限られていますので、ひとつ前のプロセス(筆記試験や[N-1]次面接)の結果で順位付けをして上位の方から案内する他ないのですが、マークシート方式の学力試験とかでない限りは客観的な優劣を示す点数などは付けようがなく、どうしても主観的な評価にならざるを得ません。

ここで「主観的な評価」とは、例えば面接での発言をその会社なり面接官なりの評価の観点にもとづいて判定し、好ましければ高い評価(ABCの三段階であればAとか)、そうでなければ平凡な評価(BとかCとか)とするようなことです。何をもって好ましいと評価するかいうと、面接での発言から推し量れる人となりをビジネスの場に仮想的に置いてみて、ポジティブな期待がより多く持てそうで、ネガティブな影響があまりなさそうだ、といった想像を手がかりとします。

確証バイアスがあなたの評価を歪める

面接官が陥りがちな傾向のひとつに「確証バイアス」があります。

「確証バイアス(Confirmation bias)」

他者に対して自身の先入観に基いて観察することで、自らの都合のいい情報だけを他者の観察から拾い集め「やっぱりそうだ」と先入観を強めること。

例えば、エントリーシートの内容やその学生の第一印象から「この学生はきっとこういう人柄だ」と決めつけ、それを確認するような質疑のみを行うような態度をとります。何しろ日程が限られているのでそうでもしなければ予定通りに進んでいかないのです。先入観がネガティブだった場合、この確証バイアスをはねのけて評価をポジティブに戻すのは殆ど困難です。

不合格といってもそんな程度の評価なので、気にせずどんどん違う会社に目を向けたほうが良いとつくづく思うのです。

 

 

自分の人生の主人公は、自分自身である。

55歳を超えた社員に必ず受けて頂く研修の運営を毎年担当していた時期があり、1日目の冒頭に研修講師が必ず受講者に強調するメッセージがこれでした。

「自分の人生の主人公は、あなた方自身なんですよ」

原則として夫婦で参加していただく2日間のプログラムで、1日目はこれまでの職業人生を振り返り「これからどうしていきたいか」を考え、2日目は退職金・年金・社会保険の最新の知識を学びながら平均寿命付近までのファイナンシャル・プランを作っていただく構成でした。終身雇用・年功序列を地で行く大きな会社で、異動や転勤も多いため「今さら主人公と言われても...」というのが大方の受講者の反応でしたが、1日目に自分のやれること・やりたいことを考え、2日目にそのための時間とお金の確保の方法を知ると冒頭のメッセージに納得感が出てくるようでした。

アドラー心理学における「自己決定性」

精神科医・心理学者のアルフレッド・アドラーAdler, A)は、どんな状況・境遇に置かれようとそれだけではその人の人生を決める決定的な要因にはならず、常に人間は自分の行動を自分で決められる(自己決定性)と考えました。

「劣等性や劣等感、生育環境がどのようであろうとも、それだけでは人生は決まらない。その後、建設的(創造的)な行動をとるか、非建設的(破壊的)な行動をとるかは自分で決められる」(岩井俊憲, 働く人のためのアドラー心理学, 2016)

自分で決められると気づいて初めて、自分にとっても周囲にとっても有意義な行動へと自分を導くことができる。どのような状況でもそうした心持ちは失いたくないものだと思います。

「女性は中身が男じゃないと管理職にできない」と社長は言った。

人事部長『春の管理職登用、候補をリストアップしましたがご確認いただけますか?』

社長『...Aはいいだろう。Bはまだ若いからダメだ。Cはいいな、彼女は思考が男だからな。女性は中身が男じゃないと管理職にはできないよ。』

同じ「正社員」でも男女で給与水準や昇進に差があった時代から、男女雇用機会均等法(1985年)の制定を機に、性別の取り扱いが中立な人事制度として主に大企業で総合職・一般職のコース別人事管理が発達しました。しかしある調査によると総合職の女性比率はおよそ1割と低く、女性管理職となると管理職全体の約5%とさらに下がります。

同じ調査で女性活躍を推進する上での問題点を企業に尋ねたところ「活躍を望む女性社員が少ない」とした回答が49.3%で最多であったそうですが、私には調査票を記入した人事担当者の思い込みが大きく影響しているように感じられます。どちらかと言えば、上の社長のように、経営側の男女の性差を捉える目が未だ「男性優位」に偏っているのが原因ではないかと思います。

原因帰属(causal attribution)の性別による差異

日本企業で「管理職には男性が向いている」と思われがちなのは何故なのでしょうか?アメリカの社会心理学者バーナード・ワイナー(Weiner,B.)は、達成動機の高い人と低い人によって成功・失敗の原因帰属の仕方に違いがあると考えました。

原因帰属には「原因の所在」「安定性」「統制の可能性」の3つの要素があり、達成動機の高い人は成功を事故の能力・努力に帰属させる傾向があり、逆に達成動機の低い人は、運のよさや課題の容易さに帰属させ、失敗を自己の能力不足に帰属させると考えられている。

目標を高い水準で達成させようとする「達成動機」は男性に多いとされ、一方の女性は他者との友好な関係を成立・維持させようとする「親和動機」が多いとされます。経営者はいわば自分の身代わりとなって自走し、確実に結果を出す社員が増えれば増えるほど助かりますから、男女を問わず「男性的な」社員を多く登用しがちだというのが真相ではないでしょうか。

 

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「働くひとのためのキャリア・デザイン(金井壽宏)」 

働くひとのためのキャリア・デザイン (PHP新書)

働くひとのためのキャリア・デザイン (PHP新書)

 

私が20年近く人事の仕事に携わり、いち社会人としても思い悩む中で折りに触れ何度も開いた一冊です。職業生活は概ね偶然に流されながら過ぎていくが、納得して人生を送るには入社・昇進・転職といった節目に自分をしっかり見つめ直し、将来の方向性を選び取るべきだと説きます。

「節目」でとるべき行動を考察する中で、アメリカの臨床心理学者ウイリアム・ブリッジズのトランジション論(ブリッジズ・モデル)が紹介されています。

終 焉:何かが終わる時期

 ↓

中立圏:混乱や苦悩の時期

 ↓

開 始:新たな始まりの時期

 

移行期が大きな(重要な)転機であればあるほど、テレビのチャンネルを変えるようには、「終焉」から「開始」へと、さらりとは移れないものである。その間に、途方にくれたり、やや宙ぶらりんな感覚になったり、少し空しくなったりもしながら、徐々に新たな始まりに向けてしっかりと気持ちを統合していく時期が必要である。(金井, 2002, p.76-77)

何かを始めようとする時には「いったい何が終わったのか」にも十分に目を向けるべきで、そうして一皮むけることで新しい世界で歩み続けるためのエネルギーを充填することができる、との指摘。

...うん、今回も胸に刺さり過ぎて泣きそう。

何しろ書名からブログタイトルまで拝借しましたので、最初にご紹介しないわけにはいきませんでした(汗

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